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授乳より献血

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 今年も、残すところあと少し。夫の就職活動が長引いた関係で、英国滞在を延長することになった。ところが許可申請の際にパスポートを提出したため、海外に出られず。里帰りができなくて寂しい年となった。トイレトレーニングも始めてはみたものの、予想外に難航している。さらに台所へ蟻が侵入、壁や床の穴をふさいでもふさいでも現れる黒い軍団との果てしない戦い。その他にも思い出したくないことはあり、一時は厄年か天中殺かと途方に暮れた(知ってもどうにもならないので調べていないが)。
 笑顔を作ることもしんどくなってきて、人と会うのも面倒なほど。日記の中で、小さな喜びを数えることが日課となった。あの世紀の楽観主義者である夫も一時はイライラしていたくらいである。
 そんな両親に八つ当たりされながらも、春香は相変わらず明るい笑顔を惜しげなく振りまいていた。闇に包まれた家庭を明るく照らす、蛍光灯のような娘なのだ。春香がいて本当によかった。この時ばかりは心底から娘の存在に感謝したくなった。

 街角で偶然出会った旧友

 さて、暗い日々からほんの少しだけ晴れ間が覗いてきた、そんなある日。またもや、献血のお知らせが届いた。来週の火曜日、シティセンターのホールが会場とある。
 私は数日前にある決心をしたのだが、これにより、この決心はますます確固たるものとなった。

 日本で、私は喜々として献血を続けていた。誤解される前に言っておくが、人々のお役に立ちたいからというのではない。立ちたくないとは言わないが正直に言うと、ただで飲食できるからである。ケチな私は、いくら疲れていようが喉が渇こうが一人で喫茶店に入ったりしない。私にとって献血ルームは、言ってみれば無料喫茶店なのである。
 順番を待つ間、冷房の効いた部屋で、ゆったりと座って雑誌なんぞ読んでいられる。自分の番が来たら、横になってうたた寝もできる。中には自分専用の小型テレビが備え付けてあるところもあり、まるでビジネスクラスの機内である。献血後は、お疲れさまでしたという暖かい言葉と共に、好きな飲み物を選べ、おいてあるお菓子が食べられる。景品も頂けて、血液検査の結果まで後日送られてくる。こんないいことずくめの献血を、どうしてやめられようか。
 海外に住むようになってからも、私は帰国のたびに献血に努めた。定期的な健康診断をしない身としては、こんな血液検査でも気休めになるのである。かくして私は献血二十回、三十回と記録を伸ばし、ティッシュやバンドエイド、バッジなど、景品のコレクションも増やしていった。
 ところがある日突然に、私の献血の喜びは終わりを告げた。狂牛病の影響で、英国に半年以上滞在した者の血液は受け付けないと言われてしまったのである。嘘をつくわけにもいかず、私はあきらめて帰途についた(が、しっかりとお茶菓子はいただいた。勧められたので、断れなかった)。
 当時、私は英国留学からイタリアに戻り、ローマで働いていた。私の知る限り、イタリアには街頭で人々に呼びかける献血車のようなシステムはなく、自ら病院に出向くしかない。忙しかった私は、いつしか献血への想いを失くしてしまった。
 
 その想いが去年、突如よみがえった。ここダンディーの街を歩いていて、シティーセンターホールの前で献血を呼びかける人を見た時は、旧友に偶然出会ったような気がしたものである。その日は時間もあったので、私は数年ぶりに献血の世界へ足を踏み入れた。ここ英国なら、断られたりしないだろう。
 ところ変われど、献血は変わらず。ここでもボランティアらしき人が、親切に誘導してくださる。私は当時一歳を過ぎた春香を連れて、会場へと入っていった。歴史的な建物の中に設置された広い会場では、人々が腕をまくって献血に参加している。私は久々に心が沸き立った。
 ベビーカーを横付けして席につき、まずはアンケートに記入する。そして名前を呼ばれ、少量の血をとられ、血圧を測り、簡単に話をする。私の血は濃くて良い血だと、何度かほめられたことがある。が、低血圧で断られたことがあるので、OKが出るまでは安心できない。
「お子さんは、おいくつですか」
「一歳です」
「現在妊娠していますか」
「いいえ」
 これらのやりとりに、余裕を持って答える。ところが、事態は予期せぬ方向へと向かった。
「現在授乳していますか」
「はい」
「あ、そうなの。じゃあ、やめておいた方がいいわね」
「えっ、あの、一日に一、二回くらいで、量もほとんど出ていないと思うんですが」
「それでも、血をとるんだから。授乳が終わったら、また来てください」
「・・・はい・・・」
 それでも、やっぱりお茶菓子はいただいた。会場を出る人は、献血したか否かに関わらず、全員ティールームへと誘導されるのである。私も遠慮なく席につき、ミルクティーと一緒にショートブレッドをほおばった。隣のテーブルでは、まるで喫茶店のように、おばさんたちが席を陣取って話に花を咲かせていた。

(この続きは、書籍でどうぞ)

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