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春香手術

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 はしがき
 
 二○○八年に起こったニュースとして、春香が手術したことをクリスマスカードに書いた。私にとっては今でも記憶が生々しい、昨年最大の事件だったのである。
 ところが、実際はそんなに珍しいことでもないらしい。何人もの方から「うちの子も手術しました」とのお便りをいただいた。入院・手術を経験する幼い子供は、実際かなりの数にのぼるようなのだ。私自身は出産時が初めての入院だったくらい病院には無縁な人間なので、そういった事実を知らなかった。
 中でも驚いたのは、私の従妹の可奈さんの体験談で、日本の小児病棟は子供の面会が謝絶だそうである。可奈さんは次男の壮太くんの手術に付き添っていたので、まだ四歳の長男・圭太くんは、母親である可奈さんになんと二週間も会えなかったそうだ。家族親戚一同がほぼ毎日のようにやって来るという、大変にぎやかな病院にいた私には、とても信じられない話である。

 今年もまた夏がやってきて、私は去年起こったことを日付と共に正確に記憶していることに気づいた。今年の七月二十一日(去年のこの日が、すべての始まり)、春香は有り難いことに健康で、子どもカンフー教室に通っていたのだった。その後、三十日(去年はイタリアへ出発した日、今年はプール教室に参加)、そして八月四日(去年のこの日に手術。今年は熱でプールを休みはしたが、おなじみの扁桃炎。翌日には回復)と、いちいち思い出しつつ、夫にさえそのことを言えなかった。反省はしていますが、もうそっとしておいて下さい、そんな気持ちである。
 それでも、起きたことを途中まで書いておいて、それがそのまま未完だったことに気づいた。七月二十一日から八月いっぱい、ちょうど日本の夏休み期間にあたる長期療養だったので、克明に事実を追っていったら、とてつもない長文になりそうなのだ。幼稚園のこと、言葉のこと、ほかにも書くべきことはたくさんあるのに、今になって四歳の面白くもない出来事を書いて掲載するのもどうかと思うし、何よりこれは私にとって育児中最大の汚点。もう記憶から記し去りたいとさえ思える。
 が、せっかくだから、何とか最後まで書いてみようと思う。春香が今でも生きていることを感謝したくなるのは、あのことがあったからだと思うから。そう、普通の母親ならそんな体験などなしに、我が子を大事に育てていけるのに。私には、そこまで荒療治が必要だったということだ。

                *  *  *  *  *

 八月四日月曜日。その日もローマは暑かった。道を歩いていると、じりじりと照りつける太陽が熱い空気を上から押しつけてくる。ローマの古びた家々、遺跡のかけら、ゴミが散らかった道端など、ぐらぐら沸騰しそうな、そのローマの街を、私は冷房の効いた病院の窓から眺めていた。そして、ハンカチを握りしめ、声を殺して泣いた。誰にも涙を見られたくなくて、仕方なく窓の外を見ていたのだった。
 もしも、手術がうまくいかなかったら、もしも全身麻酔のまま目を醒ましてくれなかったら。もしも、春香が今、ここで死んでしまったら。私の人生は、もはや何の意味もなくなってしまう。それほど私というものは、くだらない、価値のない、生きていても意味のない人間だった。春香の存在だけが、ただそれだけが尊くて、自分というものの卑劣さ、無力さ、無知、怠惰、残酷、軽薄・・・・・、どれだけ並べてもまだ足りないくらい、自分を責めた。
 たった一つ、こんな私が人生の中でなしとげた意義あること―――それは春香を産んだことではなかったか。それなのに、どうしてここまで冷酷になれたのか。まったく自分で自分が理解できなかった。
 私は強情だったのだ。私は意地でも、義父母に従うまいと決めていた。言い訳が許されるなら、いくらでも言い訳できる。それでも実際のところは、「あの人たちの言う通りにはしたくない」、その一点張りだった。娘の痛みを思いやることもなく。
 それが原因で、春香は急性虫垂炎から腹膜炎になり、あと一歩で手遅れになるところだった。

(この続きは、書籍にてどうぞ)

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