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ティーンの時代と、佛手瓜                 



 毎週月曜は、教会主催の無料ドイツ語会話クラスがある。一言も発言できない日もあるが、めげずに毎週参加している。私にとっては話すことより、ドイツ語環境そのものが大事だから。聞こえてくるドイツ語は外国語なまりでも、司会進行役の先生はスイス人。ドイツ語が飛び交う空間に身をおく、そんな時間を少しでも多く持ちたいのだ。それが無料で近所なのだから、実に貴重な場なのである。

 先日は先生が「自分の青春時代について話しましょう」と提案した。青春時代と訳すとなにやら照れくさいが、要するにティーンエイジャーの頃はどうだったかを話せばよかった。

 私は中3の時がいちばん楽しかった、クラスの仲間に恵まれて、などと話した(言い訳するようだが、ドイツ語のレベルが低いので、話す内容はどうしても稚拙になる。また人数が多いと一人一人の時間は限られ、簡潔に話すことが要求される)。
 となりのトルコ人女性は、大学まで、しっかり学んでしっかり遊んで楽しかった、と言った。彼女は口を開けば的を得ていないことが多いし、トルコ人社会に閉じこもって毎日育児しかしていないように見える。彼女が青春を謳歌していたとはどこか意外だったが、過去には今と違う生活があったとしても、何の不思議もないわけである。
 次に韓国人女性が、中学ではバスケットに明け暮れた、しかし才能がないとわかって、高校・大学時代は勉学に専念した、と述べた。
 隣のタイ人女性の番が来た。彼女はクラスでいちばん若く見えるし、ふだんは笑顔が絶えない。だが先日は精神的にどことなく不安定なようにも見えた。自分の青春時代は、仕事だったと語った。13歳まで学校に行ったら、あとは薬局に就職して、毎日顧客と話していた、勉強も遊びもなかった、裕福な家庭しか進学できないのだ、と。

 困惑の空気が広がる中、先生は表情を変えずに淡々と会を進行させる。
 次にオーストラリア人、アメリカ人と続き、二人ともスポーツに打ち込んだと言った。実際、二人とも体育教師の経歴があり、学生時代も似たような生活を送っていたらしい。
 その隣の中国人が、またもや「16歳まで働いたら、就職した」と述べた。住んでいた町には仕事がなく、都会に出て行って工場で働いた、夜のシフトの日はつらかった、しかし成人してからはダンスに夢中になり、踊るのは楽しかった、と。
 次も中国人女性だが、育ったのはカンボジア。彼女はもともとベトナムにいて、その後フランス、スイスと移民の人生を歩んできた。その原因について聞いたことはなかったが、やはり政治難民だったのである。逃亡の際に、野外で14日間も過ごしたこと。青春時代も何もなかったのだ、命からがら生き延びてきただけで。

 それにしても、この最後の中国人女性はつらい過去があるわりに、性格が非常に明るい。よく発言もするし、自分の考えを他人に押しつける傾向さえある。彼女が出席の時といない時とでは、クラスの雰囲気がまるで違う。中国に住んでいないにもかかわらず、中国人気質、文化、および言語まで身につけている。
 これはご両親の努力の賜物だろう。果たして日本に住んだことのない日本人で、ここまでしっかり日本人になれた人が一体どれだけいるだろう。中国人、おそるべし。彼女を見ているとそう思う。

 帰り際に彼女は、「佛手瓜」というテニスボール大の緑の野菜を4つもくれた。私はお金を渡そうとしたが、庭でとれたのだからと、断固受け取らなかった。
 佛手瓜は皮にトゲが生えていて調理に苦労したが、やわらかく煮たら味がよくしみ込んで、大変おいしくいただくことができた。



 みなさまへ
 
 あった出来事を即日ブログにする(日記から拾ったりせずに)という、皆が当たり前にやっていることを私もやりたいと常々思っておりました。即日というのはやはり無理でしたが、これも文章修行だと思って、今後もたびたび挑戦したいと思います。 

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「たびねす」の記事が更新されました。今回はチェコ編です。写真がなかなかうまく撮れたと思います。よろしければご覧ください!            平川 郁世


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テーマ : 日常のひとコマ - ジャンル : 育児

COMMENTS

No title

村上さま
「春香だより」にご感想をお寄せいただき、誠にありがとうございます。もう10歳、小学5年生になった娘の、小さな頃の記録は今も私にとって宝物です(娘にもそうなってくれることを願いつつ・・・!)。

 それにしても、言語に関しては少し欲が出てきたというのが正直なところでしょうか。やはり学習言語であるドイツ語を、もう少し頑張ってもらわないと。せっかくここまで習得できたんだから、できれば日本語も維持して欲しい。それに今年度より始まった英語も、英国生まれなら少しはできないと・・・というのが最近の私の本音です。幸い、語学には本人も興味があるようなので、英語もやる気になっているようです。私としても、喜んで協力するつもりです(あれ、相変わらずイタリア語は眼中にないですね・・・)!

『春香だより』を読んで 2

平川さん

『春香だより』の感想の続きです。

<市販品の味付けに繊細さがなく、甘いものは極端に甘い世界だ。こんな大味に慣れてしまったら、「ほのかな甘み」などといった繊細かつ絶妙な日本の味覚が理解できなくなってしまうではないか。> p59

繊細かつ絶妙な日本の味覚。日本に住んでいると当たり前な食環境が一歩外へ出ると特殊で貴重なものになるのですね。考えさせられます。

<言葉の習得がこんなにも環境に左右されることを見せつけられた。これは、トライリンガルなどと浮かれている場合ではない。> p65

海外居住における言語の問題。未体験、未経験の分野なのでとても興味深いです。

<子育てが楽しいのは、子どもの成長を一つ一つ間近で見守ることができるからだろう。> p66

そして、よい記録ができましたね。

<我が子がバイリンガル、願わくばトライリンガルになれば、と思ったことがない。夫には悪いが正直に言うと、春香がイタリア語を覚えることに関心がないどころか、イタリア語に侵食されて日本語ができなくなることを恐れている。基本的に子供は、特別な障害がなく、環境が整っていれば、遅かれ早かれ言葉を覚える。そう、今の私は、春香が日本語さえ覚えてくれれば、あとはどうでもいいのである。ここまではっきりと言ったことはないが、恐らく夫は気づいていると思う。> p89

言語というものについて刺激的なコメントです。この先の春香一家の言語的展開に強い関心を持っています。

村上 好

『春香だより』を読んで(1)

平川さん

11月9日から『春香だより』を拝読しています。
少しずつ感想を書かせていただきます。

<誰に頼まれたわけでもなく、自分で勝手に使命を感じて、書きたいから書いてきました。>(P15)

いいスタンスだと思います。私もまさに「書きたいから書いて」います。

<春が訪れると、空を意地悪く覆っていた灰色の雲はすっかり姿を消し、急に世界の広がりを感じさせるような青々とした大空に豹変する。>(P38)

スコットランドの春の風景がイメージとして浮かんできます。十年前仕事でエジンバラに行ったときのことを思い出します。見事な描写ですね。これからのエッセイでヨーロッパ各地の風景描写を読ませていただくことを楽しみにしています。

<まさに春爛漫といった風情である。この字を使って、我が子誕生の喜びを表現するのだ。>(P38)

春香さん誕生の母としての喜びがほとばしりでています。
おめでとうございます!!!

<皐月晴れの、実に気持ちのいい日だった。草木は緑の葉をまとってたくましく、咲き乱れた花の紅色がくっきりと映えていた。まさに春の香りがあふれていた・・・>(P40)

文字を見ているだけで実に気持ちよくなります。才能のある書き手です。

続きを読んだらまた感想を書かせていただきます。

村上 好

書きたいから書く。

平川さん

『春香だより』 の文庫本を手にし、今日から読み始めました。

「はじめに」を拝読しました。
魅力的な文章ですねぇ。

<誰に頼まれたわけでもなく、自分で勝手に使命を感じて、書きたいから書いてきました。>

文章とはそういうものだと私も思います。
共感しました。

村上 好

No title

村上さま
ありがとうございます。実はこの中国人のIさんについて、以前は少しだけ否定的に思っていました。カンボジアに育ったというのに、カンボジアについて何も知らないなんて。きっと狭い中国人コミュニティの中にいたんだろうなと想像し、うちの娘も、スイスを知らないスイス育ちになるのかと、悲観していたのです。
しかし見方を変えれば、国外にいながらこれほど徹底して中国人として生きてきたともいえるわけで、これはこれですごいと思うようになりました。

日本人というアイデンティティ

平川さん

ブログを開いたら、佛手瓜の写真が目に飛び込んできました。初めて見る野菜です。珍しいですね。

教会主催の無料ドイツ語会話クラスの実況中継、興味深く読ませていただきました。

「青春時代についての話」が国籍によってこうも違うものかと改めて驚きです。

<タイ人女性・・・自分の青春時代は、仕事だったと語った。13歳まで学校に行ったら、あとは薬局に就職して、毎日顧客と話していた、勉強も遊びもなかった、裕福な家庭しか進学できないのだ、と。>

<次も中国人女性だが・・・やはり政治難民だったのである。逃亡の際に、野外で14日間も過ごしたこと。青春時代も何もなかったのだ、命からがら生き延びてきただけで。>

この二人の話が強く印象に残りました。

<果たして日本に住んだことのない日本人で、ここまでしっかり日本人になれた人が一体どれだけいるだろう。>

日本にしか暮らしたことのない私は、日本人というアイデンティティについてまるで理解していません。世界がボーダーレス化する中で、余りにもか弱い存在だと不安になります。

いいエッセイをありがとうございます。

(今日から [エッセイ・随筆] と [マルチリンガル育児] の両方をクリックすることにしました)

村上 好

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